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第九十五話 刑事コロンボとオヤジ

 かつての米国製TVドラマ「刑事コロンボ」が4Kデジタルリマスター版となって去年あたりから再放送されている。私も毎週懐かしく観ているが、やはりいま観ても秀逸なドラマである。ストーリーの構成は、まず冒頭で殺人事件が起きる。この時点で犯人は明確である。犯行後、犯人は自らに嫌疑の及ばぬように工夫を凝らし様々なトリックを仕掛ける。犯人像はいつも上流階級の知的でハイソな人物である。このような相手を、庶民的でうだつの上がらぬ雰囲気の刑事コロンボが、巧妙なトリックを見事に暴き、犯人を追い詰めるというのがお決まりの流れだ。しかし毎回観ても痛快で飽きない名作ドラマである。

 私のオヤジはそんな「イケメンではないが切れ者のコロンボ」が大好きだった。まだ学生の私は毎週、刑事コロンボの放送時には、何があっても必ず帰宅してオヤジと一緒にそれを観させられた。いったいなぜか?・・・決して私への教育の一環とかいう崇高なものではない。要はドラマのストーリー記憶係というもの。言わば人間ビデオデッキだ。オヤジは刑事コロンボのオープニングテーマが流れ始めると同時に晩酌を始める。放送時間は1時間半。犯人が巧妙な犯行隠蔽の仕掛けを繰り広げる最初の30分は、オヤジもしっかり内容がアタマに入っている。やがて1時間後、コロンボがそのトリックを暴こうと四苦八苦しているころ、オヤジは次第に目が据わってくる。そしてラスト30分、コロンボが複雑なトリックを暴き、犯人を追い詰めると同時に、オヤジも酒に追い詰められて泥酔している。犯人がコロンボに逮捕される最終シーンなんぞ、オヤジは夢の中。大イビキをかいている。翌日、オヤジは必ず私に訊く。「ヒトシ、コロンボはどげんして犯人ば捕まえたとか?」その都度私は思った。「アンタが捕まればいいのに」と。

 オヤジの酒にまつわる逸話は枚挙にいとまがないが、ここでまた一つ思い出した話があるので紹介したい。それは刑事コロンボのときから時代も下った平成の初めのころの初夏。私は弟と二人、筑後川に架かる大堰の下流へスズキの夜釣りに通っていた。当時は外来種のブラックバスも放流されておらず、行けば60センチ前後の、有明海からの遡上スズキが何本も釣れていた。それをオヤジに話すと、俺も行きたいという。私と弟は「たまには親孝行を」ということで連れていくことにした。

 その日、日が暮れはじめるころ、一行は近くのコンビニで夜食とオヤジ用のワンカップを3本買って現地に向かった。川の堤防はすでに闇に包まれていた。私と弟は、餌を着けた仕掛けを河岸から真っ暗な川の沖に思い切り投げ込んで、アタリの鈴の音を待った。オヤジは自分は釣らずに、ワンカップをチビチビやりながら息子たちの動きを嬉しそうに眺めている。この日もスズキは順調に釣れ、2人はそれに没頭した。やがて弟がふと気になってオヤジを見ると、なぜか草むらでゴロゴロしている。「なんか変ばい」呼ばれて私も駆け寄ると、オヤジは日向ぼっこで土の上を転がるネコのように、全身泥だらけになってゴロンゴロンしている。「酒3杯ぐらいで、こうなるのはおかしかぞ」私が言うと、
空のワンカップを手に取ってじっと見ていた弟が叫んだ。「こりゃ酒(清酒)じゃなか、焼酎ばい!しかもストレート!」日ごろ清酒しか飲まないオヤジには効きすぎたのだろう。しかし清酒と焼酎の違いに気づかないまま全て飲み干すとは。 〜いま思えば、もしかしたら最初から焼酎に気づいたが、成長した息子たちの楽しそうな姿を見ながら、あえて酔いしれたかったのかもしれない〜 とにかくそのままでは落水の危険もあるので釣りは中断し、早々に帰路についた。

 翌日、やはりオヤジは訊いてきた。「きのうは釣れたとか?」 私は記憶係としてきちんと昨夜の出来事を報告して、久々にそのつとめを果たした。

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