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第六十八話 弁当の想い出

 20年程前のある時期、僕はサラリーマンでした。そこの僕の上司というのがA係長(歳は40過ぎ)という、結構変わった人で、能力はあるのに仕事にそれを発揮しない。背も高く一見ダンディなイケメンなのですが、いつも鼻毛を抜いては書類に並べてボーっとしています。頭の中は酒とギャンブルと女のことばかり。そんな上司と僕とが、ある日のこと。
 A係長:「おい、かのかっちゃん(この人が勝手にけた僕のあだ名)。今日の昼は何食おうかにゃー」
 僕:「まだ朝礼中ですよ」 
 A係長:「あそこのアレもうまそうやし、そこのコレも食いたかにゃー」
 僕:「部長がこっち見てますよ」
 A係長:「そうやアレば食いに行こう」
 僕:「・・・・・」
 A係長:「それでよか?」
 僕:「僕は今日は弁当です」
 A係長:「フン、愛妻弁当?新婚さんはよかにゃー」
 ここまではまだよかったのですが、次のセリフが決定的でした
 A係長:「そんな弁当やら、食ったフリして中身だけ捨てて帰れ」僕は強烈にムッとしました。
 僕:「Aさんは奥さんが一生懸命作った弁当を、そんなことできますか?」
 A係長:「俺はいつもそう。女房は空の弁当箱見て安心する。それが思いやりやろ?」
 僕:「思いやり?それは奥さんをダマしてるだけじゃないですか!毎晩飲み屋の姉ちゃんとのバカ騒ぎで遅く帰って遅くまで寝ているAさんのために、奥さんは朝早く起きて弁当を一生懸命作っとるんでしょう!その弁当をよくゴミ箱に捨てれますね!捨てるとき奥さんの姿が目に浮かばんとですか!」
 A係長:「若僧が何を言うか、お前はまだ人生がわかっとらん!」
 僕:「Aさんは人の道がわかっとらん!!」
 互いに興奮して怒鳴り合う二人は、ついに部長に呼び出されてしまいました。部長に叱られながらもA係長は、今夜の飲み相手のお姉ちゃんのことでも考えているのでしょう、カエルの面に水、ケロリ、ケロケロとしてます。僕は僕で、弁当にまつわるある想い出がよみがえっていました。
 ― 僕はその数年前、オヤジの反対を押し切って、なかば家出同然で上京しました。
 その旅立ちの日、僕が挨拶してもオヤジは知らんぷりでラーメンを作っていました。母は忙しい店とオヤジの目を気にして、息子の見送りもできないようでした。僕は仕方なく出発しようとすると、慌てて母が駆け寄ってきて、わずかな小銭と弁当を僕に渡しました。淋しそうに見送る母の姿に後ろ髪を引かれながら、僕は東京行きの夜行列車に飛び乗りました。そして車窓を流れ去る故郷の風景を眺めながら、何気なくその弁当を開くと、それは間違いなく母の弁当でした。砂糖多めの甘い卵焼きとピーマンの油炒め。僕が中学・高校の六年間食べ続けた、その弁当です。朝から晩までラーメン屋の仕事と、家事・育児、そして酔っぱらいオヤジの世話。仕事に追われ、疲れたら台所の床で仮眠しながら働き続ける母…。そんな母の姿がこの弁当の中に浮かんでは消え…、僕は涙があふれて止まりませんでした。僕はその弁当に誓いました。「俺、頑張って仕事して、いつか楽にしてやるけんね」 ― そんな弁当の想い出です。
 僕はその話はA係長にもしませんでしたが、何か伝わるものがあったらしく、その日A係長は奥さんの弁当をカエルの顔で食べていました(弁当持って来とるやないかい!)
 やがて僕もオヤジになりましたが、今でも釣り場で食べる弁当はホカ弁よりも、やはり古女房の愛妻弁当が一番ありがたいと思っています。