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第六十七話 心に残る一杯(下)

 「はい、お待ちどうさま」怪しいカウンターの下から現れたのは、紛れもない味噌ラーメンでした。厚手の白い丼に茶褐色のスープ。麺は黄色い極太の縮れ麺。トッピングは厚めのチャーシュー(枚数は忘れた)と炒めた玉ネギと太モヤシ。この環境と調理のシチュエーションで疑い深くなった僕は「いやいや、見てくれにダマされちゃイカンばい、喰わにゃーわからん」と、スープをすすってみました。「・・・」さらに麺を一口。当時こんなコトバはなかったけど・・・・
 「マイウ~!」とにかく旨い。新妻も同感。
 赤味噌ベースのスープは、やや焦げた赤味噌の香りと深いコク。噛みごたえのある極太麺のモチモチした食感と、とろけるように柔らかい豚バラチャーシューとの絶妙なバランス。
 僕はかつて、味噌ラーメン、特にそのスープにはある種の嫌悪感を持っていました。
 味噌汁のようで味噌汁でない、ラーメンのようでラーメンにあらず。そんなどっちつかずのスープにストレスを感じ、その度に注文したことを後悔したものです。インスタントの味噌ラーメンなどはその極みで、そこ10年程食べてもいませんでした。
 しかし!この目の前の味噌ラーメンは、インスタントなんかとんでもない、本物の見事な味噌ラーメンです。僕のそれまでの味噌ラーメン観は、完全に覆されました。
 読者の皆さまには予想通りの展開だったかも知れませんが、やはり北海道という土地はタダモノではありません。こんな場末のスナックのような店(ごめんなさい)で、こんなに旨い、プロ風に言えば「最高の商品力」を持ったラーメンが当たり前のように出てくるという驚き。さらにママがポツリポツリと語るには、このあたりでは一般家庭でも、お母さんが手作りのラーメンをこれまた当たり前のように作るそうで、寒い日は子供たちにとって最高のご馳走だとか。ママ自身も子供の頃からお母さんの作る味噌ラーメンで育ったそうです。 この町では「お袋の味」とは、味噌汁ではなく味噌ラーメンということです。当世流行の「ラーメンご当地」なんてどこかのラーメン通やメディアが仕掛けたような薄っぺらなものではなく、この地は正に気候風土と人の生活そのものが、ラーメンに適した土地なのです。
 そんなママの話を聞きながら、僕たちはスープも残さず完食したことは言うまでもありません。
 やがてその「斜里の名店」をあとにしながら僕は、昔小説か何かで読んだ「子供から年寄りまで「町の住人全員が泥棒」という話を思い出し、思わず想像してしまいました。「ひょっとしたらこの町は住人全員がラーメン屋なのかもしれない…恐ろしか」と。
 それから19年の時が流れてしまい、僕も女房もその店の名をどうしても思い出せません。
 その後そのママと店がどうなったのかも当然わかりません。
 来年で結婚20年。この節目にもう一度、二人であの斜里の名店を訪れてみたいと思っています。