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第六十六話 心に残る一杯(上)

 「ラーメン屋さんでもヨソのラーメン食べるんですか?」と、お客さんによく訊かれます。「はい、よく食べますよ」と答えると、意外な顔して「へ~そうなんだ」そして、その後に続くのが「今まで食べた中でどこのラーメンが一番おいしい(または好き)ですか?」という質問です。これにはいつも、こうお答えします。「味の好みは十人十色。お客さんと僕が同じ好みとは限らないので、お答えしてもインターネットのいい加減なランキングと同じでアテになりませんよ。でも“心に残るラーメン屋さん”ならお答えできます」と。
 今回はそのお話。
 それは一九年前、僕の新婚旅行は初めての北海道でした。と言っても、綿密なスケジュールに縛られ、食事まで決められているツアーではなく、レンタカーで自由に北海道を一周しようというものでした。テーマは「大自然の釣りと温泉そしてラーメンの気ままな旅」と、ほとんど僕の好みに合わせたワガママな新婚旅行です。
 道中、渓相のいい川を見つけるたびに車を停めて釣り糸をたれる僕に、文句も言わず付き従う初々しい新妻(今では小言ばかりの古女房に化けた)とフラリと立ち寄ったのが「斜里」という名の小さな町でした。近くの川でオショロコマという北海道の渓流魚が面白いように釣れているうち、ふと気づいたら陽も高くなっていました。そろそろ昼飯でもと、町で食べ物屋を探したのですが、閑散とした通りにそれらしい店は一つもありません。町の人に尋ねると、ラーメン屋さんなら一軒あるとのこと。「おっ、あるぢゃあないか、それもラーメン屋!」
 僕たちは空腹と戦いながら何とかその場所を見つけたのですが、しかしそこにはラーメン屋らしきものは見あたりません。あるのは古びた一軒のスナックだけ。僕は尋ねてみようと、とりあえずそのスナックのドアを恐る恐る開けてみました。のぞいてみると、誰もいない薄暗い店内には赤茶色のカウンターにペルシャの絨毯みたいな壁紙。棚には古びたキープボトルが並んで、どう見ても昭和三〇年代の場末のスナックです。「す…スミマセン」引き気味に声をかけると、カウンターの奥の暗がりの置物が動きました。「…はい…いらっしゃい」それは人間でした。いきなりオレンジ色の照明が点灯し、か細い声で現れた女性は、昭和三〇年なら若かったはずの“ママ”でした。僕が「あの~このあたりにラーメン屋さんがあるって聞いたんですけど…」と尋ねると、ママは「はい、味噌ラーメンね」と言いつつ、おもむろにラーメンを作り始めました。何とこのスナックは味噌ラーメン専門店だったのです。そしてママは何やらカウンターの下でゴソゴソとやっています。
 ちょっと不安になりました。僕もプロのラーメン屋ですから、ラーメンを作るにはそれなりの設備と厨房スペースが必要なのは知っています。それをカウンター下のわずかなスペースで、こちらからはよく見えないのですが、あたかもオイルサーデンの缶詰でも温めるようにチマチマとラーメンらしきものを作っているのです。 僕は新妻と顔を合わせて目で言いました。「こりゃイカン。ありゃインスタントばい。しもた~(しまった)」と。