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第十四話 ゼニもうけの理論?

 最近ちょくちょくラーメン屋である僕に、様々な業界の方々から講演の依頼が来るので、正直とても驚いています。でも、お声をかけていただくことはとても有り難いことですが、僕はそんなガラでもないし、最近思うところがあって、基本的に講演のお話は辞退させていただいています。僕もかつては、経営に関する講演やセミナーによく参加していました。そこでは僕も他の受講者と同じように、熱心にメモをとりながら、ありとあらゆる経営情報や経営理論を吸収しようと必死でした。
 そんなある日、こんなことがありました。市内の大きな会場で、ある大手企業の会長さんの講演がありました。その数日後、なんとその企業が倒産したのです(地元企業ではないのでカン違いされないよう)。その日を境に、さも当然のように、それまで引く手あまただったその会長さんへの講演依頼はすべて中止となり、取り巻きのファンたちも潮が引くように去って行きました。切り替えの上手な世間は現金なもので、会長さんに予定されていたその後の講演は、すぐに他の講師によってその穴は埋められ、何事もなかったかのようにそれらの講演会はとり行われたそうです。これが世の常かも知れませんが、華やかな舞台が突然消え去り、ポツンとひとり暗がりに残されたその会長さんの姿を想像すると、とても切ない気持ちになったことを憶えています。この頃から僕の講演会やセミナーに対する感心は、突如火を消された釜の湯のように熱を失ってゆき、僕のラーメン屋としての本分を見失いかけていたその時期も、経営者の知恵や生き様を完全に商品化する社会のシステムに対する失望と共に終わりを告げました。
 それから何年かの時が移りました。あの頃の講演会場で懸命にメモをとっていた勉強熱心な経営者たちは、今どうしてるでしょうか。バブル景気の最中に、講師に言われるがままに行動し、ビジネスが成功して幸せに暮らしているでしょうか。僕には解りません。しかし、1つだけはっきりしたのは、膨大な経営情報や優れた経営理論を駆使した日本経済が、現在皆さんご承知の状態であるということです。これらのことは、決して経営の勉強はだめだということではありません。実際、僕自身過去に学んだ経営理論は、店舗運営には欠かせないものとして重宝していますが、それはあくまで「道具」であり、「理念」ではありません。経営理論という、いわゆる(悪い言い方ですが)“ゼニもうけの「理論」”を「理念」とカン違いしたところから我が国の経済は崩壊し始めたような気がします。“お医者さんは、一生懸命患者さんを治療して喜んでもらってナンボ”“寿司屋さんは寿司を一生懸命握って、お客さんに「うまか」と言ってもらってナンボ”このような、自らに与えられた仕事の本質を見失わず、雑多な情報や目先の儲け話にとらわれない人たちが、来るべき時代を支えるような気がします。
 そのときは、経営理論も情報も、人の幸せを崩壊させる“凶器”から、人を助ける素晴らしい“道具”となっていることでしょう。

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