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第四十六話 崖っぷち有名ラーメン店(中)

 ~前号の続き
 「とりあえず『らーめん四郎』さんに行きましょう」斎藤優クンに言われ、スタッフに促された私と小野氏。すでに局前に待機していたロケ車に押し込まれると、ようやくKディレクターからの状況説明が始まった。走行中の車中という、逃げ場のない状態での番組企画の説明だ。カメラは回り続けている。
 Kディレクターの話を要約すると、
 ~先日、突然黒田クンの奥さんからのメールが届いた。内容は「この前『崖っぷちラーメン店』の企画で、主人を指導側のラーメン店主として出させていただいたが、うちの内情から言えば、よそのラーメン店を助けるなどの状況ではない。うちの『らーめん四郎』こそが崖っぷちであり、こちらの方が助けていただきたい云々」というもの。Kディレクターは、そのメールの内容に愕然としたものの、事の真相を探るべく、らーめん四郎の黒田光四郎クン本人に店の経営状況を伺ってみた。するとそれは、崖っぷちどころではなく、数日後には店を畳む予定で、不動産会社には退去の旨を伝えているという、驚くべき事実であった。何という事だ。前回の放送では、そんなことはおくびにも出さず、崖っぷちのラーメン店を救おうと深夜遅くまでせっせと指導していた黒田クンの姿が、番組スタッフの目には焼きついている。これは番組としても何とかしたい、いや、道義的にもせねばならない。そんな思いで今回に至った~
 そういうことであった。やがてロケ車は西鉄大橋駅近くの『らーめん四郎』に到着した。店内でも撮影準備はなされているが、黒田クンには私や小野氏が来ることは伝えていないという。店内へは先に私、そして小野氏の順に通された。休憩中の店内では、黒田クンが1人ポツンとカウンターに座り、伝票などを見ていたようだが、入店者の気配に気づいてこちらに振り返った。私に気づいた黒田クンは、思わず叫び声をあげた「うわっ!」「か、香月さん!」「小野さんまで!」
 私はある意味覚悟を決め、彼の肩に軽く手を添えて声をかけた。「元気にしとったね?」すると彼の目から大粒の涙があふれ出し、直立したまま嗚咽し始めた。「ゆっくり話そうか」
 聞けば、状況はKディレクターから聞いた話と同じで、経営状態の詳細を知れば知るほど、打開策が見えない。しかも廃業へのカウントダウンは進行中で一刻の猶予もない。
 当然ながら彼のラーメンを試食してみたが、その味や商品仕様に、かつてのインパクトや情熱を感じない。ラーメンの方向性も定まらず、店内も、何屋か解らぬほど雑然としていて、全てに「気持ちのブレ」を感じる。
 「何とかしてやりたいが、どうしようもない・・・」私がそう思い始めたとき、黒田クンが意外な話をした。
 「僕は、この店を閉めたあと、もう一度ラーメン修行を一からやり直そうと思っていました」
 「そして、その修行は・・・、できれば大砲ラーメンの香月さんのところにお願いしようと思っていました」
 男泣きしながらの、黒田クンのその言葉に嘘はない。私はその瞬間、決意した。
 「わかった。とにかく大砲においで。どげんかしよう。最悪・・・俺が面倒見る!」
 こうして、かつては九州一と言われた有名ラーメン店主の丁稚修行が、久留米の大砲ラーメン本店でスタートすることと相成ったのである。
 ~続きは次号~

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