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第四十七話 崖っぷち有名ラーメン店(下)

 ~前号の続き
 かつては九州一と言われながらも、10年を経た現在、まさかの崖っぷちラーメン店に凋落してしまった「らーめん四郎」。その店主・黒田光四郎クンの再修行が始まった。修行先は、久留米の大砲ラーメン本店。単に修行と言っても、本人は福岡・大橋の「らーめん四郎」を営業しながら、毎日40㎞離れた久留米に通うという、極めてハードな修行である。
 修行初日、深夜まで自店の営業をこなし、そのまま店で短時間の仮眠を取り、早朝から車を駆って7時半久留米に到着。出迎えた私は早速、大砲の全店舗を率いる侍大将のO営業部長を紹介し、今後の修行計画の打ち合わせをした。黒田クンは緊張のせいか、睡眠不足の気配も感じさせない真剣な表情をしている。私が2人に伝えた修行方針は、「黒田クンはラーメン店経験20年のベテラン。基本的な調理技術は有しているものとして、短期間で大砲のスープ製法『呼び戻し』を徹底的に叩き込む」とした。具体的なスケジュールは、初日は厨房内の見学のみ、翌日よりピークタイムの素早いトッピングの実作業及びスープ管理の見学。3日目はピークタイムの効率的な麺上げ作業と、新旧スープの骨(豚骨ガラ)交換作業。4日目以降は、営業中全時間帯に於いて数分おきにくり返される、新旧スープの調合・撹拌・火力と(スープの)水位の調整などの「呼び戻し」スープにおける高度な調理技術の習得に集中することとした。
 初日、彼の胸に「研修中・くろだ」という、大きな名札をつけさせた。これは、無駄なプライドは捨て、一から出直す修行僧の覚悟を持って欲しいという意味である。彼の心中察するものはあるが、この際「メンタル」部分の修行も必要だと思ったからだ。
 黒田クンは、修行3日目までは緊張しながらも順調な滑り出しを見せていた。そして大砲の店の雰囲気にも慣れ始めたころ、突如大きな壁にぶつかった。それは「呼び戻し」の壁というか、大砲のスープ調理の世界に触れた瞬間、彼は凄まじいカルチャーショックに見舞われたのだ。彼が長年憧れ、想像していた「呼び戻し」スープ、その製法のイメージと、大砲で目の当たりにしたものは、かけ離れたものであった。彼は「久留米の『呼び戻し』は、ただひたすら豚骨を炊き込んで、そのスープが余ったら翌日に持ち越し、翌日作ったスープに、それを足せばいい」と、いわゆる「継ぎ足し」という、単純なものと勘違いしていたらしい。ところが、前述の「4日目」以降の修行スケジュールに記したように、大砲の「呼び戻し」スープは勘と経験が物を言う、優れた職人技の世界であった。それを垣間見た彼の衝撃は大きかった。しかし私はそんな彼を見守った。誰もが直面する壁である。そして今いる社員たち誰もが乗り越えた壁である。
 さらに数日が経過した。黒田クンは連日の疲労と苦悩で体重も落ち、目玉だけが血走っている。
そして10日が過ぎ、彼はさらに痩せた。もう限界かなと思いながら、私は彼の顔を覗き込んだ。すると、わずかながら彼の瞳に輝きが戻っていた。これは「呼び戻し」の世界が面白くなってきた兆しである。まさに「しめたもん」である。そのタイミングで、侍大将のO部長が、最終コーナーの鞭を振るった。黒田クンはこの勢いで、ゴールを目指して突っ走った。まるで数年分のコースを2週間で走破しなければならないスーパーハードコースである。それを彼は走り抜けた。
 修行の終盤、私は彼の店で彼の「呼び戻し」を味わった。美味かった。
 やがて黒田クンの店はリニューアルオープンの日を迎えた。店内外は、店舗デザイナーの小野氏の手によって、スッキリとモダンな作りとなっており、当然、かつての雑多なポスターや意味不明のフィギア群はすっかり取り除かれている。店舗入口の看板には、私が名付けさせて頂いた屋号が描かれていた。その名は「呼び戻し とんこつ・光四郎」
 それは「過去の栄光ではなく、新しい光を呼び戻せ」と言う思いを込めた屋号であった。