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第十八話 ネコのつぶやき

 我輩は猫である。名前はタマ。ありふれた名である。どうせ「サザエさん」でもみて安直に付けた名であろう。名付け親はこの家のヒトシという小学生である。家の生業は「タイホウ」という小さなラーメン屋で、ヒトシは長男坊らしい。人間の世界ではこの時代を「ショウワ」と呼ぶらしいが、ネコにはどうでもいい。
 数年前のある日、我輩がたまたまこの家の玄関先で昼寝をしていたら、学校帰りのヒトシにいきなり捕まり、家に連れ込まれた。以来ここに住み着く羽目になったのであるが、おもえばネコにとっては最悪の家であった。
 まず、ここの家長でラーメン店主のノボル。このオヤジがとんでもない酒飲みで乱暴狼藉者。おかみさんのヨシコは小柄で優しく、いつも我輩にカツオ節のかかったご飯をくれるが、常に酒乱のノボルにおびえている。あと1人、次男のヤスタカというのがいる。これはまだ幼稚園児なので、我輩にたいした害は及ばない。とにかくヒトシはヒドイ。ヒトシは我輩を毎晩「抱き枕」にして寝る。ちなみに我輩の体はデカイ。どれくらいデカイかというと、2本足でつま先立ちすると、台所のシンクの縁に顔が乗る。先日ヤスタカの幼稚園仲間が遊びに来て、玄関で我輩の寝姿を見るや叫び声を上げ、泣いて帰った。であるから、ヒトシには我輩が「抱き枕」としてちょうど良いのである。いい迷惑である。人間の両手足で羽交い締めされた我輩は呼吸もままならぬ。さらにヒトシは我輩の冷たい耳を触るのが心地良いのか、耳を思い切り握り締める。すこぶる痛い。ニャァと声を出すと、ヒトシは寝たままニヤリと笑う。我輩は息苦しさと痛みに耐えながら、ヒトシが眠りに入った頃合いを見てそっと布団を抜け出す。すると突然シッポを掴まれ、再び布団に引き込まれる。見るとヒトシは目をとじたままニヤリと笑っている。面妖な少年である。数日前の朝のこと。突然ヒトシはベッドの下で寝ている我輩を捕まえ、おもむろに右前足を脇に押さえつけ、そこに体温計を差し込んだ。3分後、ヒトシは抜き取った体温計を見つめると、ニヤリと笑い、それを手に階下に下りていった。ヨシコとヒトシの声が聞こえる。「熱があるけん学校休んでよかね?」「あらほんなこつ。よかばい、休まんね」その日学校に行きたくなかったヒトシは、ネコの体温は人間より若干高いことを知っていた。
 我輩もネコである。当然外で狩りもする。近くの畑で小さなヘビを獲ったことがある。家ネコには獲った獲物を主人らに見せて褒めてもらおうとする悲しい習性がある。そのときも意気揚々とヘビをくわえて帰ってきたら、掃除中のヨシコがいた。我輩は自慢げに獲物を見せた。するとヨシコは絶叫しながら、手にしていたホウキを振り回し我輩を追い立てた。人間がそこまでヘビが嫌いとはつゆ知らず、不覚であった。ならばと、スズメを獲ってきた日のこと。このスズメというやつは、獲るのがなかなか難しい。地面で遊ぶスズメに気づかれぬよう、ほふく前進にてソロリと近づき、スズメが飛び立つ方向と角度、それを捕獲する地面からの高さを予測して飛びかかるのであるが、その成功率は極めて低い。したがって、その日獲ったスズメというのは、散々苦労した末の珠玉の獲物であった。それこそ喜び勇んで持ち帰ると、台所に家長のノボルがいた。我輩は最高の栄誉を賜らんとノボルに近づいた。振り返ったノボルは「お、タマ。ほうスズメば獲ってきたか」と言うなり、ノボルは我輩の至宝というべき獲物をヒョイと取り上げ、コンロで焼き始めた。そしてテキパキと羽をむしり取りスズメの塩焼きにしてペロリと食ったのである。
 そのとき我輩は心に決めた。「もう、この家を出よう」と。
 以上、イヌも食わぬがネコも食わぬ話であった。許されよ。