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第百二十七話 星になったラーメン店主

 僕の友人でもあるラーメン店主がきのう亡くなりました。それは5月のさわやかな雨上がりの夕暮れ時でした。今回、49歳という若さで逝ったそのラーメン店主の話を少々させて下さい。
 生前の彼は冗談好きな飄々とした男でしたが、ラーメンに対する思いはなかなか熱いものがありました。10年ほど前に宅配ピザの店を人に譲り、一念発起でラーメン屋を始めてから以降、ことあるごとに、ラーメンに関するアドバイスを僕に求めました。たとえば「豚骨の部位はどこが一番スープが出るとね?」と訊かれると、僕は「そりゃ、呼び戻しスープなら、全部の部位がよか。まず、一番もろい脊髄からダシが出て、次にバラ、そしてアタマ。最後にゲンコツ(大腿骨)が自然に壊れてダシが出る。間違ってもゲンコツは割って入れたらでけんばい。一気にいいダシが出てしまうけんね。割って入れるのは取りきりスープのやり方ばい」と、まあこんな具合ですか。また、彼はラーメン店の経営のやり方も一風変わったところがありました。突然、三潴や大川を中心に同じ屋号の店を、何店舗か一気に出店し、それらの店が軌道に乗ったかと思うと、次々と屋号ごと弟子に安く売ってしまったのです。そして自分は柳川に別の屋号の店を出し、その1つの店に収まってしまいました。本当に奇抜な男でした。趣味と言えば「酒」。とにかく無類の酒好きで、僕が朝起きて携帯を見ると、深夜2時や3時の彼からの着信記録が幾度となくありました。恐らくどこかの飲み屋あたりでラーメン談義に盛り上がり、その勢いで僕を誘いだそうとしたのでしょう。結局、その酒が祟ってこのようになってしまったのですが、彼にとっては、それも本望なのかも知れません。
 しかし彼は、幾ばくもない自分の余命を知りながらも、やはりラーメンへの思いは最後まで衰えず、取引のある僕の麺工房の部長を入院中の病院まで呼んで、新作の麺の打ち合わせをしていました。それも常に冗談交じりで…。僕にはこのようなまねはできないでしょう。恐るべきラーメン魂です。
 そんな彼の死は僕の心に悲しみの風穴を空けてしまいました。しかし、彼がラーメン屋として生きた足跡は何かのかたちで記録しておきたいと思い、冥福を祈ると共に今回のコラムで彼の話を書かせていただきました。
 先ほど聞いたことですが、去年嫁いだ彼のひとり娘が、先月男の子を産んだということでした。星になった彼は、これからはその孫の成長を空の彼方から見守り続けるでしょう。

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