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第百二十六話 映画「ラーメン侍」幻の脚本⑮

前号からの続き

16 運 命

 目前に二つの手の平が差し出された。山村と端午のものである。「きょうも視てください!」声を揃えて二人一緒に手を突き出された清美は困惑している。すると突然屋台の中から昇のどなり声が聞こえた。通りかかった石焼き芋屋は腰を抜かしながら足早に逃げ去った。
 昇はカウンターの上台を叩きながら、久々に阿形の顔になっている。二人の男たちは顔面蒼白で固まっている。
「俺はにゃ、この屋台に命を賭けとるったい!それをやめろだの、立ち退けだの、お前らは昼は役所の机でてれっと鼻くそホジっとるだけで給料もろうて、夜は酒飲んでさるき回っとるだけやろ!俺たちゃ夜中まで命張っとるんぞ!泣く子も黙るウシミツドキまでぞ!」
* (光)『それを言うなら〈草木も眠る〉でしょ』
 二人の男は鞄を小脇に抱えて、そそくさと退散した。昇は二人の背中に啖呵を切った。
 「あさって来やがれ」
*(光)『・・・・』 
 「何が歩道の整備だ、駅前開発だぁ、新年早々、最初の客がアレか、胸くそ悪か」昇はコップに酒を注ぎ、一気に飲み干した。「でもねぇアンタ、その話、もう役所で決まったんやないと・・・」心配気な嘉子に昇は言った。
「バカタレ、そげなコツは勝手に決めさせん。俺でっちゃ清き一票の持ち主ぞ。役所に勝手なコツぁさせん」
 嘉子はつぶやいた。「ばってん、こげな屋台の運命っちゃ・・・はかないもんかも・・・」昇は二杯目の酒を注いだ。
 そんなところへ、山村と端午が揃って暖簾をくぐって来た。なぜか二人は目を赤く腫らしている。「どうしたお前たち?デヤし合いでもしたか?」「アニキ。聞いて下さい」端午は潤んだ声で語りはじめた。「清美ちゃんはカワイソウなんですよぉ」「ああ、あの手相の姉ちゃんか?」「そう、その手相の清美ちゃんは・・・」
 道頓堀の角で、清美は二人の手をそっと降ろしながら言った。「私には主人がいました。でも、主人は私が身籠もったときに病気で亡くなりました・・・。そのとき私は決心をしました。主人の面影だけを胸にしまい、お腹の子をひとりで生んで、ひとりで育てるって・・・そして男の子が生まれました」屋台のカウンター越しに山村は涙声で言った。
 「そんでね、のぼっちゃん、その子がね、その男の子はね・・・、七歳のときに交通事故で亡くなったげな・・・、あんまりやろ?・・・悲しすぎるばい」清美は涙ぐみながら、それでも無理に笑みをたたえて言った。「・・・だから、光くんを見るたびに・・・息子を・・・」

――――――(回想)清美は光を見つめながら
 「光ちゃんはすくすくと育ちますよ。やがて大きくなって、きれいなお嫁さんをもらって、かわいい赤ちゃんが生まれて・・・」清美の瞳は潤んでいた。そして人の運命って・・・いったい何だろうって。そして私は占いの勉強をしました。わずかでもその運命ってものを理解したかったから・・・。人の一生の筋書きを書く神様がいるとすれば、その神様に少しでも近づいてみたかったから・・・」
 翌日、山村と端午は道頓堀の角に立っている。そこに清美の姿はなかった。その翌日も、そのまた翌日も、清美は現れなかった。
*(光)『山村のおじちゃんとダンゴ兄ちゃんの恋も、はかない運命でした』
 やがて冬は終わろうとしている。道頓堀の角には清美の姿も、山村たちの姿もなく、そこの日だまりには、一輪の白いタンポポが咲いていた。

次号へ続く

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