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第六十八話 初代熱風録(改)(7)最終章

前回からの続き~ 
 山内一豊ではないが、成功者というか世に出た人の陰には、得てして奥さんの内助の功があるようだ。
 さて、屋台の強制立ち退きで、ラーメン稼業存続の危機に立たされたオヤジ。屋台の移転先も見つからず、新たに店舗を構えるような資金など「宵越しのカネなど残さない」オヤジにあろうはずがなかった。名物の吽形(うんぎょう)像の恐ろしい顔も次第に崩れ始め、金剛力士はのび太君へとメタモルフォーゼしてしまった。
 母はそんなオヤジを黙って見ていたが、ある日突然「お父さん、もう屋台はやめて店舗ば出さんね」と言った。オヤジは怒る気力もなく、情けない声で「そげなカネどこにあるや?」すると母「あんたの枕の中ば見てんね」オヤジは言われるままに自分の枕の縫い目を解き、ソバ殻の中に手を突っ込むと、何か手に触れるものがある。取り出してみると、それは1冊の預金通帳。開いてみるとビックリ、残高100万円!(当時の100万円は今の貨幣価値で1千万円位だろうか)しかも通帳はオヤジの名義。オヤジはこの時ほど母に感動し感謝したことはなかった。途端、オヤジはパワーがよみがえり、顔はイキナリのび太君から吽形像へと戻ったが、なぜか笑顔の吽形像(気持ちワル!)。早速その枕の資本金を元に五穀神社前の小さな土地を購入し、そこに木造2階家の住宅兼ラーメン店舗を建てた。これが現在の大砲ラーメン本店の前身である。
 面白いのは、オヤジが長年愛用してきた屋台の処分の方法だ。当時は営業権付き屋台の売買は許されていたし、買い手はいくらでもいた。普通の商売人なら、売った屋台の収入を新店舗の開業資金に組み込むものだが、普通じゃないオヤジはさにあらず。
 ある神社の境内で、オヤジは自分の屋台に酒をかけて清めると、何と火を付けて燃やしてしまったのだ。信じられない行為だが、オヤジとしては「我が分身のごとく愛した屋台を赤の他人に譲るくらいなら、いっそ自らの手で葬りたい。ゼニカネの問題ではない」そんな思いなのだろうが、しかしやることが凄まじい。屋台の燃えさかる炎の向こうに浮かぶオヤジの立ち姿は、正に金剛力士の姿そのものだったという。
 やがて新店舗は無事開店。以来、幾度かの改築・改装を繰り返しながら52年を経た現在も、お陰様で本店は健在である。そのオヤジは平成9年に鬼籍に入ってしまったが、金剛力士の思いは、今も私から弟子たちへと受け継がれている。
 今思えば屋台時代、近所が火事になったとき、オヤジの枕を抱えて外へ飛び出し、周りから笑われても黙ってその枕を抱きしめていた母。その枕が一家の危機を救い、その後のラーメン家業を継続させてくれたのである。
 世間で活躍する人がいれば、とかく人は本人のみを評価しがちだが、その人を陰で支える人の存在も推して知るべしである。

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