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第四十四話 山太郎ガニ

 私は川で捕れる「山太郎ガニ」が大好物で、これは、近海のワタリガニや日本海のズワイガニよりも美味だと思っている。そもそも山太郎ガニは、その旨さで世界的に知られている「上海ガニ」の亜種であり、姿は両者ともそっくりで見分けがつかない。旨いはずである。ちなみに山太郎ガニの標準和名は「モクズガニ」という。五年前の秋、私は自宅の際を流れる高良川で1杯(1匹)の巨大な山太郎ガニを捕獲した。甲羅は私の握り拳ほどもあり、足を広げると、私が両手の指を広げて親指を合わせたほどの巨大さであった。早速、醤油で甘辛く煮付けて食したのであるが、旨い。過去に食った山太郎ガニのなかでも最高の旨さであった。カニは大きいほど旨い。家族3人で食っても食べ応え充分、至福の時であった。その巨ガニの甲羅は、今でもリビングの壁にディスプレイされているが、それ以来、なぜか山太郎ガニとは疎遠になり、寂しい思いをしていた。
 ところが去年の秋、熊本の菊池川河川敷で「山太郎祭り」なるものが催されるという情報を目にした。突然の朗報に私は驚喜。開催当日、よだれをすすりながら会場に駆けつけた。想像通りそこは山太郎ガニ一色で、「ガネ(カニ)汁」「ガネめし」「山太郎カレー」「山太郎ガニの姿煮」様々な山太郎ガニ料理を提供するテントが立ち並び、大勢の来場者で賑わっていた。私は、はやる心を抑えながら目当ての姿煮を注文、出てきたのは小振りの山太郎ガニだが味はそう変わらんだろうと、甲羅をはがしてとりあえずカニ味噌を1口食べてみた。ところがピンとこない。あの高良川の巨ガニが旨すぎたのか、他の山太郎ガニ料理も食してみたが、どれも大味に感じる。少々失望しながら会場を見回していたら、一角に、生きた山太郎ガニの販売コーナーを見つけた。覗いてみると、そこには元気なカニたちが網袋に入れられてうごめいている。そして安い。こうなったらこのカニを買って帰り、自ら料理するしかない。私は一番大きなカニが5杯ほど入れられている袋を買い、帰路に着くことにした。カニ袋をぶら下げて歩いていると、なぜか背中がかゆい。やがて腹回りや首筋が、そして全身がかゆくなり、体中にじんま疹が現れた。そう、ついに恐れていた甲殻類アレルギーが発症したのだ。私の母は甲殻類アレルギーで、エビ・カニの類は体が受け付けなかった。もしそのアレルギーが遺伝するのであれば、私にもその因子があり、いつかはそれが発症するのでは、という懸念がいつもあった。それが、今日この場で現実となったのだ。だがこの日は日曜で、おまけにここは小さな田舎町。皮膚科の病院など開いていない。私は大急ぎで、近隣の薬局で症状を説明し、薬をもらい服用した。すると、よほどその薬が体に合ったのか、帰宅したころには体中のかゆみも止まり、じんま疹もすっかり消え去った。
 しかし大きな問題があった。風呂場でうごめいているカニである。せっかく買った大きな山太郎ガニ、これをどうするか、前の高良川に逃がしてしまうか、じんま疹覚悟で食うか、私は葛藤しながらもついに決心した。「薬を飲みながら食おう」と。身体に及ぼす障害の恐怖より、山太郎ガニの旨さへの渇望が勝ったのである。私はまず薬を飲み、それからカニの調理に取りかかった。そして姿煮もできあがり、なおも心を葛藤させながら恐る恐る食べてみると、旨い。あの巨ガニに近い大ガニである。不味いわけがない。アレルギーの心配もいつの間にやら雲散霧消、数杯を一気にペロリ。さらに薬が効いたのか、その後も翌日もアレルギー症状は一切おきなかったのである。もしかしたら、あのじんま疹は、カニによるアレルギー症状ではなく、別の要因があったのかもしれない。
 ということで、読者諸氏はこのようなことは絶対に真似をしないでいただきたい。アレルギーを持つ人によっては、命に関わることなのだから。
 今回のコラム、ふざけたオヤジの戯れ言と思って下され。

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