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第四十三話 鮭の呪い

 私は毎年、釣り仲間たちと北海道・道北地方にイトウを釣りに行く。それは一昨年の9月の終わりのこと。例年ならば6月下旬の釣行なのだが、今回は(許可されているエリアで)鮭を釣ってみたいし、産卵行動も見てみたい、ということになり、この年に限って日程を鮭の遡上時期としたのだ。もし鮭が釣れなくても、いつものポイントでイトウやアメマスなどを狙えばいいと考えながら現地入りした。
 まずは毎年恒例、稚内駅前の名店「たからや」の塩ラーメン(抜群にうまい)で腹ごしらえをして、とりあえずイトウを狙いにお馴染みの川へ直行。しかし数日来の大雨で川は増水し、水深も判らぬほど赤く濁っている。これでは釣りにならないし危険だ。移動しても、全ての川は同じ状態。車で何十キロも探し回って、ようやく全く濁りのない1本の細い川を発見した。
 橋の上から覗いてみると、渓相は浅い砂礫の平瀬で、鮭が産卵するには持って来いの川。さらによく見ると、案の定、無数の鮭らしき魚影が見えるではないか。興奮した私と連れのMは川へと駆け下りた。水に立ち込むと、足下を大きな鮭たちがすり抜けてゆく。雄同志が雌を巡って争う姿も見える。すると少し下流のMが私を呼びながら、早く来いと手招きしている。まさかクマが出た?私は急いで川岸に一旦上がり、Mの対岸正面から水深50センチほどの川に飛び降りた。その私を見て、なぜかMは残念そうに空を仰いで座り込んだ。聞けば、まさに産卵直前のカップル鮭をMは見つけ、じっと観察することにした。雌の鮭は、尾びれで砂礫を払いながら懸命に産卵床を作っている。雄はその雌に寄り添いながら、時々体を振るわせて産卵を促している。やがて産卵床の準備も整い、2匹は上流に頭を向け、ぴったりと横に並んだ。そしてそろって口を大きく開けた。放卵と放精の瞬間である。Mは心で叫んだ「行け!イケ〜!」。そこに、あろうことか私の足がザブン。2匹は驚いてちりぢりに逃げ去ってしまった。鮭にとっては一世一代の聖なる儀式、その成就の寸前に、悪魔のごとき人間の大足が突っ込んできたのだ。Mがへたり込んだのは無理もない。さすがの私も罪の意識を感じて、もう姿も見えないその鮭たちに謝った「ほんなこつ、ごめんね〜、別の場所でもう1回ガンバッてね〜」。
 釣りの神に見放されたのか、そのカップル鮭の呪いなのか、その後も2日間、何の魚信もなく、河口の鮭釣りもアタリなし。北海道釣行、初の「ボーズ」で幕を閉じた。
 不思議なのは、帰宅後、突然左ヒザが激しく痛み出し、検査の結果、カルシュウムの固まりが神経を刺激しているということで、手術で2週間の入院と相成った。そして、翌年の北海道釣行も全くのボーズ。何とその数日後、左足ヒザを骨折。またも私は、2年連続で同じ左足ヒザの故障で、同じ病院の同じ部屋に入院することになった。
 いま思う、あの鮭の産卵床を直撃したのは、左足だったのだろうと。

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