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第百十六話 あるイケメン男の話

 20年ほど前、僕はある会社に勤めていました。そのときの同僚にSという男がいました。Sはいわゆるイケメンで頭脳明晰、加えて弁舌達者。宴会でマイクを持たせようものなら、話す言葉は立て板に水、どんな場面でも確実にその場を盛り上げる達人でもありました。雑草的存在の僕は、そのような華やかなSを羨望の目で見ていた記憶があります。
 そんなある日の夜、僕が自宅でくつろいでいると、Sから電話がありました。すると、受話器の向こうのSは、なぜかうろたえているような動揺しているような、上ずった声で、突然こう言うのです。「香月さん!ヒドイやないか!あんなエッチな写真を俺のバッグにこっそり入れて!いたずらにも程がある!」と。僕は一体何のことかワケわかりません。そして今度はいきなりSの奥さんが電話に出て、「香月さん!本当ですか?あれはあなたの浮気相手の写真なんですか?」奥さんの声は金切り声。たぶん夫婦喧嘩の最中に電話してきたのでしょう。僕はしばし考えました。そしてフッと思い出したことがありました。それは数日前、Sが僕の課にフラリと現れ、仕事で使うからと、備品の一眼レフカメラを借りていったことを。「そうか!」僕はピンときました。おそらくSは浮気相手との密会の場所にそのカメラを持ち込み、卑猥な写真を撮って、その写真を自分のバッグに隠していたのでしょう、しかし偶然Sの奥さんは、その決定的な証拠写真を見つけてしまった。
 奥さんはその証拠写真を手に、Sに詰め寄ったのでしょう。そこで頭脳明晰で弁舌達者なSは、窮地の策として、全てを僕の仕業に仕立て上げることを思いついたのです。受話器の向こうではSの奥さんが、本当にあなたの写真かとわめき続けています。僕は迷いました。ここで僕が「ノー」と言えば、結婚間もないSの家庭は崩壊するかもしれません。「イエス」と言えば、Sの奥さんは二度と僕と口を聞くこともなくなり、一生僕を変態として軽蔑するでしょう。迷った挙げ句に僕は言いました、「Sの言うとおり、それは俺の写真。ちょっとしたイタズラでSのバッグに・・・」言い終わる間もなく、受話器から奥さんの叫び声。「キャー!香月さんの変態、変態、変態?」すかさずSの、「ほらね、俺の言うとおりやろうが。香月さんはイタズラ好きで、変態なんよ」と言う声が聞こえ、電話はそのまま切られてしまいました。
 翌朝、Sはすまなさそうに「弁解の言葉」を並べ立てました。僕は遮るように言いました。「お前の頭脳明晰弁舌達者は、自己保身のために人を犠牲にするための道具なんやな」と。
 世の中には負い目を感じる相手に背を向ける人間がいるようです。Sは次第に僕から遠ざかっていきました。それから10年後、Sは全く出世することもなく、その会社を去ったそうです。