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第四十三話 木造校舎のラーメン屋・下

 「この校舎を僕に譲ってください!」
 突然ラーメン屋のオヤジの口から飛び出した荒唐無稽の言葉に、T氏は、久留米弁で言うところの“タマガッタ”状態。かまわず僕は続けました。
 「もし頂けるなら、僕はこの学校の古材でラーメン屋を造ります。そしたら、この子供たちも、卒業生も、かつての学舎(まなびや)にいつでも会いに来らるっでしょ。六年も通った小学校の、思い出の廊下も、教室も、黒板も、跡形もなく消えて無くなるってんなんてん、そらガバ可哀相か話ですたい!」
 今思えば、我ながら何と非常識なお願いだったことか。勝手に興奮しながら喋る僕の言葉をじっと聞いていたT氏は、やがて一言。
 「わかりました。しかるべきところに相談てみましょう。僕もここの卒業生です。そして、最後の在校生十三名の中には私の娘もいます。もしこの学校の一部が、どこかで息づいていてくれたら、この子供たちも、もちろん私たち卒業生も大変嬉しいことです」
 意外な、しかし大変有り難いT氏の言葉に感動し、干し竹の子のことなどスッカリサッパリ忘れてしまった僕でした。
 それから二年の月日が流れ、いま僕のTラーメンには、木造校舎をコンセプトにした二つの店があります。そうです、二年前のあの日、突拍子もない僕の申し出に心を動かされたT氏は早速、村長さんや村の教育長さんその他関係各位にその趣旨を説明し、お願いして廻られたそうです。やがてその“飯干小の校舎の一部を、村外の民間ラーメン店に提供する”という前代未聞の案件が村議会に上程され、賛成多数で可決されたのです。何と有り難いことでしょう。僕はこの村と飯干小学校に、心からの敬意と感謝の気持ちを込めて、二つの店の門柱にそれぞれ「松崎分校」「合川校舎」という表札を掲げました。
 余談ながら、その松崎分校での出来事。
 ある日、来店された一人のおばあちゃんが、何やら入り口付近でうずくまったまま、じっとしていたそうです。何事かと心配した店長が駆け寄ってみると、そのおばあちゃんは入り口の壁に貼られた“ありし日の飯干小学校”の写真を見て泣いていたそうです。実はそのおばあちゃん、飯干小学校のかつての校長先生ということでした。“まなびや”というものは、そこで学んだ子供だけでなく、そこで教えた先生にも、そして地域の人々にとっても、やはり心の故郷なのでしょう。
 この正月の四日、矢部村の成人式に招んでいただいたおり、僕は会場へ向かう途中で、何気なく飯干小学校の跡地をたずねてみました。山道の通学路はあの日のままでしたが、折からの雪に覆われて滑りやすくなった坂を登り詰め、ようやく辿り着いてみると、校舎のない運動場は、寒風の吹く雪原になっていました。誰もいない校庭跡に一人佇んでいると、風の音に混じって何処からか「こんにちわー」という、あの日の子供たちの声が聞こえる気がします。僕は何ともいえない寂しい気持ちでそこを後にしました。その日の成人式は、わずか十八名の新成人たちを、村人たちが優しく見守るようにして執り行われる心温まるものでした。その中に飯干小学校の卒業生が二名、とても元気に成人を迎えていました。