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第五十七話 丑の刻参り?

もう、かれこれ四半世紀は経つだろうか、当時は「パワースポット」なる呼び名も聞かなかった頃の話である。まだ30代の私は毎週のように弟と連れ立って、九州各地の山奥へ渓流釣りに出かけていた。また釣りに限らず「スピリチュアルな世界」にも興味があった私たち兄弟は、釣行先でそのような場所があれば、よく立ち寄っていた。これから話すのは、私が訪れた数あるパワースポットの中でも、最も強烈な記憶となった体験談である。
 そこは熊本県内の「H神宮」。この神社は万物の親神である「大宇宙大和神(おおとのちおおかみ)」という神様が唯一祀られている日本最古の神社といわれており、あの日露戦争における日本海海戦を大勝利に導いた東郷平八郎元帥も開戦前に参拝したという由緒ある神社である。そのようなH神宮は、現在でも最強のパワースポットとして国内外でその名を馳せているようだ。
 私たちが最初にH神宮を訪れたのは春の昼下がりだった。樹齢数千年はあろうかと思われる檜(ヒノキ)の巨木が立ち並ぶ参道を歩くだけで、神秘的な「何かの力」に包まれる気がする。檜並木を抜け、真っ直ぐな石段を登り詰めた先に社があった。意外と小規模で質素な本殿だ。私たちは二礼二拍手一礼の参拝を終えると、本殿裏手の霊水の池へと向かった。清清しい森の道を歩いていると、私はふと写真を撮りたくなり、緑に囲まれた小道を歩く弟の姿を2枚ほどフィルムに収めた(当時デジカメはない)。
 実はその写真、その後の不気味な体験の序章となったのである。後日、現像された例の2枚の写真を見てみると、1枚は森の小道を歩く弟が写った普通の写真。ところがもう1枚は、画面を埋めつくすほどの大小さまざまな球状の発光体が映り込んでいる。そう「オーブ」である。その2枚は、同じ時間、同じ場所をほぼ同じアングルで撮ったものであったにも関わらず、1枚だけそのようなものが写るということは、単に「レンズのホコリ」という説明はつかない。やはりそこは名だたるパワースポット、色々なモノが集まっているのであろう。
 そしてもうひとつのH神宮での不思議体験、というよりあれは恐怖体験であった。それは同じ年の秋、天の岩戸を流れる川の源流で、時間も忘れて釣りに夢中になっていた私と弟に、いつの間にか夕闇が忍び寄っていた。「秋の日はつるべ落とし」、今日の釣果に満足していた私たちは、手早く納竿して帰路についた。その経路にH神宮がある。その日もなぜか、私たちはH神宮に引き寄せられるように立ち寄った。時刻はまさに逢魔が時、怪物のような巨木が囲む参道は、すでに闇に沈んでいる。這うように石段を登り、何とか本殿にたどり着いた。私たちが賽銭箱の前で横に並び、いつものように拝礼しようとすると、真っ暗な本殿の中に、何やらわずかに動く白いモヤモヤしたものが見えた。私たちは顔を見合わせ、再び目を凝らしてその白いモノを見つめた。どうやら白い服を着た髪の長い女性のようである。こちらに背を向けて正座をし、一心に何かを祈っているみたいだ。するとその女性、私たちの気配に気づいたらしく、突然スーッと立ち上がり、静かに振り向いた。もう、私も弟もすでに金縛り状態である。と、彼女は、いきなり我々の方へ向かって音もなく駆け寄って来たのだ。しかも、並ぶ二人の真ん中を目指して。不思議なことにその女性は、我々のどちらにもぶつかることなくすり抜けて、後方の石段に消えていった。私はすり抜ける瞬間の、乱れた髪の隙間に女性の顔を見た。それはまだ20代の若い女性であったが、何かを究極に思いつめたようなその表情は、この世のものではない気がした。
 今でこそ世界中「白い服に長い黒髪の女性」は心霊モノの定番であるが、私たちは25年程も前に、すでにその定番を目撃していたのである。
 はたしてH神宮で出会った女性が、生身の人間であったか異界のそれであったかは、今となっては判らない。それ以来、私たちはH神宮を訪れていないのだから。