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第五十一話 崖っぷちラーメン店「五常」(中)

 ~前号の続き
 その日「師匠の承諾がなければ、この企画は受けない」それだけを林氏と局側に伝えると、私は店を出た。まさかの展開にスタッフたちには戦慄が走ったようだが、仕方がない。ディレクターは私を見送った後、急遽師匠へとりあえず電話するよう、林氏に促したようだ。その後、林氏は師匠ご夫婦と久々のご対面と相成った。結果、師匠は快く承諾してくれた。のちに知ったことだが、この時の師匠の別れ際の言葉「これからあなたは2人の師匠を持つ訳だから、しっかり頑張らんといかんよ」これには、私も身の引き締まる思いがし、今回も、半端な気持ちでは引き受けられぬと、改めて思った。
 そして指導初日、「泰星ラーメン」に出向くと、のっけから予想だにしない事態が待ち受けていた。それは、巨大な五右衛門風呂のごとき鉄釜の存在である。その釜は厨房奥、バックヤードに所狭しと鎮座していた。直径は1メートルはあろうか、すり鉢状の鋳物製の釜が、耐火レンガで作られた円筒形の窯業窯のようなものの上に置かれている。釜にはジョウゴを逆さにしたようなステンレスの大きな蓋が被せられ、その上部はダクトに連結され、換気扇のある排気口へと伸びている。林氏曰く、これは師匠から受け継いだもので、釜は実際「五右衛門風呂」の釜であるという。そういえば私が子供の頃、母の実家で入ったことのある、あの風呂の釜である。まさか五十数年を経て再びその釜に、まさかこんなかたちで出会うとは。
 驚愕はさらに続く。この釜の天井には手動のクレーンが設置されていて、そのフックにはステンレス製の大型ザルが吊るされている。その装置で水を張った釜に大量の豚骨を投入するのだという。スープを炊き込むときのバーナーもこれまた特製で、その熱量は何と5万キロカロリー!大砲ラーメンのスープ用バーナーの3倍以上である。全てが桁違いだ。しかも大型繁盛店対応というべきその大規模な設備で、経営が崖っぷち状態の、わずかな杯数のラーメンを提供しているのである。そのもったいなさとアンバランスさも桁違いである。
 今回、崖っぷちラーメン店シリーズで、私は初めて大きな壁にぶつかった。というのも、林氏の師匠・上瀧氏を、私も共にリスペクトしながら指導しようと決めていたからだ。ならば当然、師匠譲りのこの釜を使わない訳にはいかない。しかし、どんな特性を持つのかも解らぬこの釜で、しかもスープの「呼び戻し」技法専門の私が、初めて挑む「取り切り」技法である。
 さあ、どうする香月!このまま逃げ出すのかぁ・・・!
 
~次号、汗と涙の完結編~

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