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第四十九話 ホタル

 このコラムでも何度か登場させていただいた我が家は、野中町を流れる清流・高良川の土手に張り付くように建つ築9年の一軒家である。
 この家の庭には3年ほど前から、毎年5月の中旬を迎える頃、1匹のホタルが現れるようになった。それがほぼ毎晩、1匹のみのホタルの舞いが6月梅雨入り頃まで続く。最盛期など、庭の板塀1枚外では数多くの高良川産ホタルが乱舞するのであるが、我が庭に現れるのはなぜか1匹なのだ。
 ささやかな庭は、北東から南西へのL字型で、この形に沿うように幅1尺ほどの小さな小川を設えている。そこにはポンプで汲み上げられた井戸水が絶え間なく流れ、これにホタルの幼虫の餌になる巻貝のカワニナを一握り放流したところ、いつの間にか自然に繁殖していた。ついでに言うとサワガニも数匹、世代交代しながら何年も住み着いている。狙った訳ではないが、ホタルが繁殖するにはもってこいの人工の小川である。庭の1匹のホタルがこの小川生まれかは定かではない。
 
 この数年、5月の最終土曜日には「ホタルの会」なるものを催している。宵の口から数組の親しい友人家族を招き、奥方と子供たちには高良川の土手で乱舞する無数のホタルを楽しんでいただき、親父組は我が家のリビングにて、庭の1匹のホタルと酒を楽しむという催しの会である。その会も終盤に近づくにつれ大いに盛り上がり、やがて親父たちの目に映る1匹のホタルの光が2つに見えてしまうころ、宴はお開きとなる。賑やかな友人家族たちも去り、静けさを取り戻した我が家。リビングの窓越しにふと庭を見ると、1匹のホタルが舞っている。祭りのあとに取り残された寂しさを訴えるかのように、静かに光を明滅させながら。

 私の母親は4年前の夏に亡くなった。とにかく明るく元気で、人の集まる賑やかな場が好きなひとであった。
 庭に現れる1匹のホタルは、母が逝った翌年の初夏に、初めて舞った。

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