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第五話 北海道ラーメン行脚・下

 目前に現れたのは、古びた赤提灯のたもとから吹き出す煙と、お世辞にもキレイとは言い難い店。おびただしい炭焼きの煙は、店全体を包みながら漆黒の北の夜空に立ち昇っています。誰もいない寂しい街角に、そこだけ生物反応を感じる異様な風景。屋号は「鳥源」、なぜか同じような入り口が二つ並んでいて、右の扉の横には屋号看板と同じ位の大きな字で「勝手口」と書かれています。「なんと親切な店だろう」僕は迷うことなく左の扉から突入しました。そして店に入ってビックリ。100席近い客席を埋め尽くす老若男女のお客さんたち。焼き場には、数千本はあろうかと思われる串打ちされた焼き鳥の山と、それを無造作につかみとっては炭火の上に並べるイキのいい二人のお兄さん。コの字型二連の炭焼台から勢いよく立ち上がる煙。焼き場の熱気と客席の活気に僕は圧倒されました。「何だ、繁盛してる焼き鳥屋なんか探せばどこにでもあるじゃないか」と読者諸氏はお思いでしょう。さにあらず、最後まで読んでいただきたい。
 運良く焼き場正面のカウンターに座ることができ、メニューを見ると、焼き鳥は鳥皮と鳥身(ヤッパリ)のみ。あとは飲み物と、なぜか「そば」だけ。僕はとりあえず「ビール」ではなく「焼酎」と焼き鳥を数本注文して、焼き場のお兄さんたちのテキパキとした仕事振りを眺めていました。すると僕の横の扉から、入って来るわ入って来るわ、ひっきりなしのお客さん。ここは福岡・天神のど真ん中でもないし、まして平日の木曜日。いったいその人たちはこのゴーストタウンのような町のどこから涌いてくるのか?ベトコン兵のごとく何処からともなく突然現れるお客さんたちを見ながら僕は思いました。「この焼き鳥屋はタダモノではない」。
 それを裏付けてくれたのが、まずは当然ながら焼き鳥の「味」。冷凍モノでないことは言うに及ばず、よほど素材を吟味しているのでしょう、口の中でジワリとにじみ出るアツアツの肉汁のうま味は逸品。北海道には珍しく「塩焼き」を薦めるのもうなずけます。
 そして極めつけは、やっぱり焼き場の元気なお兄さんたち。特にぼくの目の前の“若い頃の三島由紀夫”ソックリのお兄さんたるや、焼き鳥を焼く手を休めることなく、来る人・帰る人全てのお客さんに対し、爽やかな挨拶に加えて、必ず一言そのお客さんガラミのイキな世間話をしています。その上すべてのお客さんの名を記憶してるようです。少ない常連客だけのうらぶれた飲み屋ならいざ知らず、都会の大型繁盛店なみの客数がありながらこの細やかな接客はスゴイ。僕が何気なく三島由紀夫兄さんに「九州から来たとばってん、近くにイワナの釣れる川はなかね?」と訊ねると、お兄さんは焼き串を返しながらイキナリ大声で奥のお客さんに向かって、「○○さーん、チョットこっち来てー九州の人に釣り場を教えてー、穴場知ってるっしょー」。
 すると店の奥から、ヨッパライたちをかき分けながらヨッパライおじさんがフラリと現れました。おじさんは僕が広げた地図を見るなり、「ここ!釣れるヨ。ア・ナ・バ。」そして両手を一杯に広げて、「こーんなアメ(アメマス:イワナの一種)がウヨウヨ。川に入ると足にぶつかるっしょー。」と、信じがたい情報をあっさり教えてくれました。僕が早速 明日その穴場に行かせていただく旨と深い感謝を伝えると、そのおじさんはまたフラリと去って行きました。
 何もかもがタダモノではない町。僕の中では、そのチャンピオンは、やはり三島由紀夫兄さんでした。焼き鳥屋に限らず、ラーメン屋も含めてあらゆる食べ物屋が経済繁栄だけを求めて企業化・システム化しているこの時代に、失われかけていた「人をもてなす心」という最も大切な「商売の基本」をこのお兄さんは僕に思い出させてくれました。
 今回の北海道ラーメン行脚の旅で、僕にとって最大の収穫の場は全国に名だたるラーメン屋ではなく、小さな町の焼鳥屋でした。
翌日、巨大アメマスへの期待に胸躍らせておじさんが教えてくれた穴場へ直行。しかし、足にぶつかる魚体はおろか、一日中竿の穂先に何の反応もなく久々のボーズで北海道の旅は幕を閉じました。
 やはり、北の大地はタダモノではない。