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第三十四話 善行児童物語

前号の続き
 「おーい誰か溺れよるぞ!」私は叫びました。非常事態につき戦争ごっこは急遽休戦。敵(?)の2人は私のもとへ駆け寄り、3人は眼下の池へ猛ダッシュ。中でも一番体格が良く、足の速いFがいち早く池へ飛び込みました。池の深さは彼の胸くらいで、彼が抱きかかえた女の子を私が受け取りました。その子は水もほとんど飲んでなく、命に別状はないようなので、ひとまず安心。私たちは泣きじゃくるずぶ濡れの女の子にジャンバーを着せ、家まで送ってあげることにしました。
 たまたまその子は、Fの家の近所の鮮魚店の子でした。母親とおぼしき女性が店先に出てきたので、私たちは詳しく事情を伝えたのですが、その母親は、我が子を自分に引き寄せ、怪訝な顔をして私たちを見るだけ。娘がいたずらされたとでも思っているのでしょうか。考えてみれば、小学6年生の見るからにワルガキ3人組が、軍服もどきの服を着て、モデルガンを片手にずぶ濡れの3歳児を連れてきたのです。ましてやFはその界隈でも悪評高いワルガキです。店の奥からは、出刃包丁を手にした親父が今にも飛び出して来そうな気配が・・・。私たちは早々に立ち去ることにしました。
 それから数日後、その私たち3人は突然、教頭と担任に呼び出されたのです。どうやら、私たちが他人の屋敷の庭に無断で侵入し、学校が禁じているモデルガンで遊んだあの日のことが、学校の知ることとなったようです。担任の尋問が始まりました。「お前たちは◯月◯日何処其所の屋敷の庭で遊んだか?」「はい」来るぞ、核心の不法侵入とモデルガン所持の件が・・・。私たちは唾を飲み込みました。「そうか、そこには池があったか?」「はい、ありました」「そこで溺れている3歳の◯◯ちゃんを助けたか?」「はい、助けました」「質問はそれだけだ。教室へ戻りなさい」「え?」私たちは拍子抜けしました。
 さらにその数日後、今度は校長室に呼び出されました。校長先生曰く、「君たちが溺れている女の子を救助したという話を耳にしたので、学校はその真偽を確かめるために、その子のご両親に確認したところ、間違いないという回答を得ました。従って、君たちを南薫小学校の善行児童代表とします。そこで、ある表彰式に出席してほしい」何というか、それはアリエナイ!ことでした。恐らく薄々気づいているであろうモデルガンのことも、バレバレの不法侵入も一切不問ということです。そんなことより「人の命の大切さ」が最優先ということなのでしょう。
 その表彰式とは、久留米青年会議所(土師軍太理事長)の発足15周年の記念事業で、内容は、久留米市内の全小学校を対象とし、各校が選んだ善行児童が一同に会し、表彰を受けるというもの。
 その日私たちは、着慣れぬヨソ行きの服で表彰会場に臨みました。周りを見渡すと「本物の優等生」ばっかり。成績抜群な神童らに混じって、往復10km近い通学路を6年間、無遅刻無欠席で通学した耳納連山紫雲台の茶店の女の子などもいます。浮きにウキまくっていた私たちは思いました。「俺たちは、こんな場所にいるべきではない。いや、いてはいけない」と。
 今思えば、その時の新聞記者からのインタビューが、私にとってメディア取材初体験でした。
 取り留めのない話になってしまいました。
 その人命救助の舞台となった屋敷、調べてみると、元久留米藩家老岸家の別荘で、3600坪に及ぶ市内唯一の江戸様式の遺構であったそうです。しかし、いつの間にかそこは平凡な住宅地となり、いまや屋敷の面影もありません。
 7年前、縁があったのか、私はその屋敷跡の近くに終の棲家を得ました。今年3月、高良川の土手沿いの私の自宅の庭に、初めて「つくし」が顔を出しました。