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第二十一話 魔法のスープ

 現在のラーメン業界において、豚骨スープには大別して「取り切りスープ」、そして「呼び戻しスープ」とよばれる2つのタイプがあると言われています。前者は博多を中心とした近年のラーメン店に多いスープで、その技法は、決められた量の豚骨と水の入った寸胴鍋を、決められた火力と時間で煮詰めてスープを取り、その日のうちに使い切るというもの。この技法は、習得までの時間が比較的短く、またCK(セントラルキッチン・中央集中調理工場)化に適しているので、急速な店舗展開が可能です。ほとんどのラーメンチェーン企業がこの方式を採用しています。
 一方、「呼び戻しスープ」。恥ずかしながら、この名は20年ほど前に私が命名させていただきました。我が大砲ラーメンの豚骨スープも当然この技法で作られています。それはよく勘違いされる「とにかく前日の残りスープと今日作ったスープを合わせれば『呼び戻しスープ』のできあがり」というような単純なものではありません。本来の「呼び戻しスープ」の調理には、まず「羽釜」を使います。寸胴鍋は元来弱火でダシをとる清湯系スープに使われるもので、豚骨スープのようにハイカロリーコンロで沸騰させ続けるには、寸胴鍋ではなく、熱効率が良く、スープの対流が理想的な「羽釜」が最も適しています。そして大砲の羽釜には、創業以来のスープが入っております。営業中、スープ管理担当の社員は常にスープ釜の前に張り付き、刻一刻と変化していくスープの状況に対応すべく、常に若い(新しい)スープと古いスープを絶妙にブレンドし続ける(他にも火力の調整・スープの水位の調整・豚骨を攪拌(かくはん)するタイミング等の作業アリ)という熟練の職人技を要するものです。このスープはCK(中央集中調理工場)での大量生産は不可能です。従って、店舗展開の出店ペースは「職人」が育つ時間に比例し、オリンピックのように数年に1店舗という大変スローなものです。恐縮ながらウチは、チェーン店における「スープを作ることのできる絶滅危惧種的ラーメン職人」が生き残る最後の現場といったところかも知れません。もし、「呼び戻しスープ」をうたいながらスープのCKを有し、ハイペースな出店をするラーメン店があるとすれば、私にはアンビリーバブルです。
 私にはある失敗談があります。それは平成3年、私が初めての支店「合川店」を出店したときのこと。グランドオープンの前夜、スープの味見をすると、全く別物のスープが出来上がっているのです。呼び戻しスープ独自の香りが全くせず、ただムダに乳化しているだけで旨味もコクもありません。水のせい?新しい羽釜?他の器具?解りません。様々な方策を尽くしても何の効果もなく、いたずらに時間が過ぎて夜が明け始めました。そこで私は決断しました。「本店のスープを全てここに移動させよう。」オープン直前、何とかその作業が完了。やっと求めていたスープの味に戻り、どうにかオープンにこぎ着けました。しかし、今度は本店のスープが別物になっていたのです。そう、あの時の合川店のスープと同じ状態に。そこで気づいたのが、いわゆる「タネスープ」の存在です。どんな場合でも、豚骨を新しいものに交換する際、メインの羽釜の底には、少なくとも洗面器1杯分の古いスープを必ず残して、新しいスープと骨を足していく。この洗面器1杯のスープ、それはタネとなり、いつものスープが呼び戻る、まるで魔法のスープです。それに改めて気づいた私は、急きょ合川店の「タネスープ」を今度は本店の羽釜へ運び入れ、かろうじて難を逃れました。あわや「本店から創業以来の数十年物のタネスープが途切れる」という危機は脱しました。これを教訓に、新店オープンの際は必ず本店を含む既存店からバケツ何杯もの「タネスープ」を投入してスープを仕込みます。昭和28年創業以来62年物のタネスープが、現在11店舗の大砲の羽釜の中に確実に息づいています。「呼び戻しスープ」その名の由来には、これら私たちの経験が深く関わっているのです。