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第百十四話 味と暗示

 まちで見つけたおしゃれな小物を、自分の部屋に飾ってみると、何かパッとしない・・・。お店にディスプレイされているときは、あんなに素敵だったのに・・・。
 こんな経験、皆さんもおありかと思います。それはあなたが、実はお店の暗示にかかっていたのです。 店内外のデザイン、照明などによる空間演出、商品のディスプレイなど、おしゃれでかっこいいお店ほど、お客の購買意欲をかきたてる暗示のプロなのです。例えば、高価な宝石を激安量販店のゴチャゴチャした商品群の中に置いても、それは決して売れないでしょう。暗示というのは、イメージを大切にするお店の大切な要素なのです。
 食べ物屋も同じ事です。味が良いということは最も大切なことですが、高級なフレンチや懐石料理などの高価な食事を提供するお店ほど、店内の空間演出や調度品、高度な接客などで、美味しい料理を、より美味しいと感じさせる暗示の力が必要になってきます。暗示とは、演出であり、非日常感であります。
 こんな話を聞いたことがあります。ある若い女性が初めてスキーに行って、そこにいたスキーのインストラクターの男性に一目惚れをしてしまいました。そしていざ結婚してみると、なんてことない、オナラばっかりするタダのむさ苦しいオヤジだった。女性は思いました。「あのときのあのカッコイイあなたは一体どこへ?こ、こんなハズでは・・・」と。そうです、その女性はスキー場で完全に暗示にかかっていたのです。輝く白銀に囲まれて、雪焼けの肌に微笑むと真っ白い歯の爽やかな(そうな)インストラクターに手を添えられれば、どんな女性だって暗示にかかって当たり前ですね。ああ、インストラクターが羨ましい。一方ワタクシはラーメン屋。お店の演出はしますが、ワタクシ自身には誰も暗示にかかってくれません・・・。

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