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第七十八話 初代熱風録・最終章

 山内一豊じゃありませんが、成功者というか、世に出た人の陰には必ず奥さんの内助の功があるようです。
 さて、屋台の強制立ち退きで、ラーメン稼業存続の危機に立たされたオヤジ。屋台の移転先も見つからず、新たに店舗を構えるような資金など「宵越しのカネなど残さない」オヤジにあろうはずがありません。名物の吽形(うんぎょう)像の恐ろしい顔も次第に崩れ始め、つり上がった眉は下がって目はうつろ、固く閉じた口も半開きとなり、金剛力士はのび太君へとメタモルフォーゼしてしまいました。
 母はそんなオヤジを黙って見ていましたが、ある日突然「お父さん、もう屋台はやめて店舗ば出さんね」オヤジは怒る気力もなく、のび太君の顔のまま情けない声で「そげなカネどこにあるや?」すると母「あんたの枕の中ば見てんね」オヤジは言われるままに自分の枕の縫い目を解き、ソバ殻の中に手を突っ込むと、何か手に触れるものがあります。取り出してみると、それは大判小判がザックザク…いや、一枚の預金通帳でした。開いてみるとビックリ、残高一〇〇万円!(当時の一〇〇万円は今の貨幣価値で一千万円位でしょうか)しかも通帳はオヤジの名義。オヤジはこの時ほど母の行為に感動し感謝したことはありませんでした。途端、オヤジは俄然パワーがよみがえり、顔はイキナリのび太君から吽形像へと戻りましたが、なぜか笑顔の吽形像(気持ち悪!)。早速その枕の資本金を元に小さな土地を購入し、そこに木造の住宅兼ラーメン店舗を建てました。これが今の五穀神社前の大砲ラーメン本店であります。
 面白いのは、オヤジが長年愛用してきた屋台の処分の方法です。当時は営業権利の付いた屋台の売買は許されていたし、買い手はいくらでもいました。普通の人なら、売った屋台の収入を新店舗の開業資金に組み込むものですが、普通じゃないオヤジはさにあらず。
 ある神社の境内で、オヤジは自分の屋台に酒をかけて清めると、何と火を付けて燃やしてしまったのです。信じられない行為ですが、オヤジとしては「我が分身のごとく愛した屋台を赤の他人に譲るくらいなら、いっそ自らの手で葬りたい。ゼニカネの問題ではない」そんな思いでしょうが、しかしやることが凄まじい。屋台の燃えさかる炎の向こうに浮かぶオヤジの立ち姿は、正に金剛力士像そのものだったようです。
 やがて新店舗は無事開店しました。以来、何度かの改装を繰り返しながら四十年を経た現在も、お陰様で本店は健在です。オヤジは九年前に亡くなってしまいましたが、金剛力士の思いは僕から弟子たちへと受け継がれています。
 しかしながら今思えば屋台時代、近所が火事になったとき、オヤジの枕を抱えて外へ飛び出し、周りから笑われても黙ってその枕を抱きしめていた母。その枕が一家の危機を救い、その後のラーメン家業を継続させてくれたのです。
 世の人は、世間で活躍する人がいれば、とかく本人のみを評価しがちですが、その人を陰で支える人の存在も知るべしですね。

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