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第五十三話 宮さまの替え玉(上)

 タイトルの“替え玉”とはラーメンの“替え麺”のことであります。決して“本物とすりかわった偽物”の意味ではありません(冒頭からの注釈で失礼)。
 宮さまといえば、ご存知皇族の敬称でありますが、先日の読売新聞に“故高円宮さま 思い出各地に”というコラムがありました。著者は“九州ラーメン物語”の原達郎氏、同紙のシリーズコラム“ラーメン人模様”の第二話であります。
 コラムには、国民のスポーツをこよなく愛された高円宮憲仁親王殿下はとても庶民的なご一面をお持ちで、つとにラーメンを好まれていた云々と書かれていましたが、その中に実は、僕のTラーメンも含まれていました。
 以下同コラムを引用させていただきます。
 ~(前文略:2002年9月24日午後7時ごろ、高円宮さまの側近の方から本店へ電話があり)「今から宴席へラーメンの出張料理ができないものでしょうか」との相談だった。社長の香月均史さんが「技術的に不可能です」と答えたところ、「それでは伺います」との返事だった。そして、高円宮さまは、店を閉めた10時ごろ、お見えになった。
 同店初代の故・香月昇さんが、創業時の1953年(昭和28年)ごろ作っていた味を復元した「昔ラーメン」を食べられ、「替え玉を」と所望された。しかし、失礼になってはいけないと思い、新たに1杯つくって差し上げたところ、これも見事に食べられた。
 香月さんが「お口に合いましたでしょうか」と尋ねたところ、「本場の豚骨ラーメンは、本当においしゅうございました」とのお答え。
 香月さんは、高円宮さまが久留米は豚骨ラーメン発祥の地ということをご存じだったことに、深く感激したという。~
 
以上引用。
 僕は、皇族、それも皇位継承権を有される高円宮さまにご来店いただき、お褒めのお言葉を賜ったことは大変有り難く思いました。
しかしその時は、この事が町中でここまで噂の的になるとは、思いも寄らないことでした。その後、会う人毎にその日の詳細をよく訊ねられます。この際、この場をお借りして原氏のコラムにも書かれなかったことを少々お伝えしましょう。
 側近の方から、突然(ホントに突然)本店に電話をいただいたその時、奇しくもその本店の二階会議室で、僕たちは店長会議の真っ最中でした。そのときのやり取り…「天皇陛下の身内ん人の家来さんから電話げなばい」「そら皇族の側近からの電話ち言うったい。ばってんそら本当や?」「タカマドノミヤデンカち言わっしゃった」「そら本者や?」「どうもホンナモンのごたるよ」そんな店長たちのやり取りを聞いていた僕は「ドキッ」としました。
 高円宮憲仁親王殿下といえば今日、久留米市野球場で開催された「天皇杯全日本軟式野球大会」ご出席のために久留米に来られたということを、たまたま聞いていたからです。僕はすぐにその関係者に連絡をとりました。間違いありませんでした。「本物」でした。
瞬間、店長会議の議題は「タカマドノミヤデンカのラーメン」という緊急議題に差し替えられました。

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