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第二十一話 続・九州生まれの醤油ラーメン

 プロジェクトメンバーたちは、まるで、“開かずのゲート”がイキナリ開かれて「待ってました」とばかりに一斉に駆け出した若い競走馬たちのようでした。しかし、その若馬たち前にはいくつもの障害が待ち受けていたのです・・・。彼らが三百年前のラーメンの食材探しに取り掛かかるべく、ラーメン研究家・H氏の協力で古文書のレシピを入手したものの、手にしたレシピにはあまりにも情報が少なすぎました。このプロジェクトは、前述のように“麺以外の全ての開発”を担当してますが、その古文書には、スープの食材名はただ一つ“火腿(ホウタイ)”とあるだけ。あとは、「薬味として“五辛(ウーシン)”が添えられていた」・・・これだけでした。スープの食材“火腿”とは、いわゆる金華ハム(中国ハム)のことで、中国料理の世界では、このハムでとったスープのことを“上湯(シャンタン)”と呼び、清湯(チンタン:澄ましスープ)系スープの中でも最高級とされています。しかしながら、たとえ高級といえど、この火腿だけでとったスープは今の日本人の舌には合わないでしょう。まして他の調味料のたぐいは一切記載されてません。とにかくスープに使う火腿は、あくまで補助的な食材にして、メインはやはり清湯の基本である“豚骨”と“鶏ガラ”でないとイカンということになりました。
 あとはもう想像を逞しくするしかありません。メンバーA曰く「開発コンセプトも“柳川の歴史と風土を生かした、食べて美味なる云々”やろ?朱舜水も柳川におったなら、地元の特産物は当然口にしとろうし、その食材をラーメンに用いても不自然じゃなか。要するに地元食材をふんだんに使ったウマかラーメンば創ればよかっちゃろうもん。」 と、まあ“開き直り”にもとれますが、的は得てます。そしてメンバーBが「そうやん、ダシもとれる柳川の特産物ち言うたらヤッパシ有明海の魚介類やろ!中華スープと有明海の魚介スープのブレンドでいこう!」と提言したところ他のメンバーもこの意見に全員賛成。ようやく基本方針が定まったプロジェクトのスープ班は、“わらすぼ”“うみたけ”をめざして柳川の魚河岸へさっそうと出陣しました。
 かたや“五辛(うーしん)”の担当メンバーである懐石料理店店長は、その現物の入手に奔走していました。五辛とは、川 椒(中国四川省の山椒)・白芥子(白からし)・黄芽韮(黄にら)・青蒜絲(葉にんにく)・香 菜(中国パセリ)の、これら中国の二つの香辛料と三つの香味野菜のことです。これらの食材は、知人の中華のシェフや漢方薬店の協力で何とか手に入りました。しかし、はたしてこの五辛をそのまま小皿に盛ってラーメンの薬味に添えたところで、一度口にした人は、二度との次の箸は出さないでしょう。それほど、今の日本人にはなじみのない強い香りや苦みがあるのです。
 どっこいそこは百戦錬磨の懐石料理人。とりあえず、黄にらや葉にんにくなどの比較的口になじみのあるものは、細かく刻んでネギとまぜてトッピングすることにしました。あとは強烈なクセを持つの中国パセリと残りの香辛料類です。これも摺り下ろして何か他の食材と絡めて使いたいのですが、これと調和する、うま味が強い食材が必要です。何かいい食材はないか・・・。
ヒラメキました。「そういえば、このラーメンの発表の舞台になる柳川御花といえば名物は・・・“鴨”たい!」このアイデアから生まれたのが“五辛を隠し味にした鴨のミンチ”でした。“ピンチがチャンス”料理の世界も同じです。この懐石料理人の発想の産物は、やがてこのラーメンを大いに救うことになります。
 かくのごとく、メンバーたちはプロジェクト発足以来、二ヶ月ほどの間、来る日も来る日もスープの試作を繰り返してきました。そしてようやくスープの原型が完成してきたのが発表会の直前でした。そこでメンバーたちは、それなりにウマいスープに仕上がったということで、とりあえず本番前に、殿様ご兄弟やラーメン研究家・その他関係各位をお招きして小さな試食会を催そうということになりました。
 やがてその試食会の日。我がプロジェクトが手掛けた生まれたての新型清湯スープに、T商店が開発した“蓮粉の麺”を入れて本番同様の姿のラーメンを、お歴々にご試食していただいたのですが・・・
そこにはトンデモナイ事態が!

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