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第百十二話 幻の脚本①

 過去の自己満足に執着するようで見っともない話だが、いつの間にかパソコンから消えていた私執筆の映画「ラーメン侍」の脚本データを、先日、同映画の監督・瀬木直貴氏が探し出してくれ、嘆いていた私のもとへ届けていただいた。この映画の脚本、正式には我妻正義氏(新仁義なき戦い・岸和田少年愚連隊・その他)である。そしてその脚本の土台となったものが、私のパソコンから消え、数年もの間「幻」となっていた脚本である。今回、そのハイライト的な一部を数回に分けて紹介させていただきたい。

小説風兼脚本風
ラーメン侍

2 屋 台

 ~省略~

 当時、ラーメンという食べ物は屋台でしか味わえないものであり、また戦後復興に勤しんだ人々の腹を満たした貴重な蛋白源が、このまちでは豚骨ラーメンだった。

 それらの行列屋台に囲まれるように、開業したばかりの1軒の閑な屋台がある。暖簾には野太い文字で〈弾丸ラーメン〉とある。

 そのいかめしい屋号の屋台が、この物語の舞台である。店主は喧嘩と酒が趣味というより生き甲斐という、神代 昇(30歳)。小柄で働き者の妻・嘉子(33歳)と夫婦でこの屋台を営んでいる。

 ある夏の夜、弾丸ラーメンのカウンターには若い男女が1組だけ長椅子に座っていた。男は一見チンピラ風。口いっぱいにラーメンの麺を押し込むような品のない所作。一方、若い女は目の前のラーメンに箸も付けずにうつむいている。

 立ちのぼる羽釜の湯気。店主の昇は、首にタオルをかけた白いアンダーシャツ1枚の姿で黙々とチャーシューをスライスしている。時折チラリと客を見るその眼光は鋭い。

 昇の横では、割烹着の腹の膨らみも目立つ身重の妻、嘉子が布巾で器を拭いている。静かな店内。軒下の風鈴が時折チリンと鳴っている。

 すると突然、目の前の男が口いっぱいに麺をくわえたまま、のけぞるように暖簾の外にかき消えた。驚いた嘉子が横を見ると、今までチャーシューをスライスしていたはずの昇の姿がない。暖簾の外から聞こえる鈍い音。低いうめき声。嘉子が慌てて外に廻ると、そこには、よろめきながら逃げ去るチンピラを見送るように、仁王立ちした昇の姿があった。

 昇の足下には、チョークを手に歩道に落書きをしている7歳の息子・光がしゃがんでいた。光は何事もなかったように、コンクリートの歩道に〈鉄腕アトム〉の絵を描いている。

 「アンタ何ばしたと!」 嘉子は大きな腹を抱えながら昇に詰め寄った。

 「お前は気づかんやったろ?あん兄ちゃんはラーメン喰いながら、隣の姉ちゃんの尻ば触りよった、タダのチカンたい」昇は光を見下ろしながら言った。

 「光!お前はあげな軟弱な男にゃなるなよ!」

 光は黙って鉄腕アトムを描いている。

 「アンタも災難やったねェ。もう安心してラーメン食べんね」

次号へ続く

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