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第八十一話 ジャズとラーメン(改)

 私のラーメン店では、30年ほど前から店内BGMにジャズを流している。今でこそ居酒屋から、はては寿司屋までジャズを流すお店が増えてきたが、30年前、ジャズのBGMを流す店といえば、それこそジャズ喫茶かショットバーくらいであった。そんな訳で当時はよくお客さんから「何でラーメン屋にジャズなの?」という質問を受け、私はこう答えていた。「たとえば、クラシックは中世の欧州貴族に雇われた音楽家が、貴族のために創った音楽ですね。一方ジャズは、かつてのアメリカ南部で差別と貧しさにひたすら耐えながら生きるアフリカ系の人たち。彼らの魂から搾り出された哀歌「ブルース」がその原点です。私の大砲ラーメンも、元々は戦後の貧しい一軒の屋台から始まりました。ラーメンそのものも、いわば社会の底辺から生まれたものです。音楽にたとえるならば、やはりその生い立ちはジャズに近いものを感じます。そこであえて店内BGMはジャズにしました」と、まあこのような説明をしていた。
 そして最近ある本で、一般的な飲食店のBGMはどのような音楽がふさわしいのか?というタイトルの記事を読んだら、飲食をするお客さんが、食事や会話に耳障りに感じないのがやはりジャズであった(ボーカルのない静かなインストゥルメンタル・ジャズ)。要するに、高級レストランは別として、クラシックはかしこまりすぎるし、歌謡曲やポップスは、それぞれの曲調がバラバラなので、お客さんのテンションとの差が生じ、曲によっては不快感を与えるということであった。これを読んだ私は「うん、自分は間違っとらんやった」と、ほくそえんだ。
 しかし私がさらに思うのは、どんな店にもジャズを流せばよいというものでもない。やはりそのお店の意匠や空間のコンセプトがしっかりしていなければジャズを流しても、それは取って付けたような浮いたものになるだろう。
 今回はジャズの話を偉そうに書いてしまったが、実は、私はジャズ愛好家ではない。私が本当に好きなのは70年代のアメリカンロックなのであった(笑)。

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