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第六十四話 初代熱風録(改)(3)

前回からの続き
 しかしオヤジは、単なる「優しさを秘めたランボー者」でもなかったようだ。私が知る限り、ケンカ以外にも色んな才能があった。まず「絵」がうまい。正式に絵を学んだわけでもないオヤジだったが、画用紙と鉛筆一本持たせると、サラサラといとも簡単に風景画を描く。それがまた素晴らしいデッサン画であった。余談だが私が幼年期、屋台の歩道にチョークで絵を描くのが好きで、長じてグラフィックデザインをかじったりしたのも、オヤジの血であったのかも知れない。
 絵心という感性は、そのまま料理の感性に通ずるものらしく、それがのちに、昨今、久留米のラーメンの最大の特徴と云われるようになった「呼び戻しスープ」を生み出すことになる。さらにオヤジはその感性に加えて、ケンカで磨いたのであろう、人の心理を瞬時に読みとる「読心術」を併せ持っていた。なんか、ここまで言うとスーパーマンのようだが、要するに屋台の前職は「若手の天才テキ屋」であった。
 以下、映画「ラーメン侍」のワンシーンにもなった、そのころのオヤジの口上をひとつ。
 ~ときは昭和20年代後半。ある街角の人だかり。その真ん中にはオヤジが一人あぐらをかいて座っている。足元に拡げたゴザには何かを包んだ怪しげな紙の小袋が無数に並べてある。「さぁサァ寄ってらっしゃい見てらっしゃい(フーテンの寅さんのノリ)。取りィ出したりますコノ袋、中身はこんな黒い粉。ところがコレはそんじょそこらの粉じゃーない。私のふるさと信州は春里村(そんな村は存在しない)そこでとれた猿。そのとれたての猿のアタマを焼いて焦がして粉にした、万病のクスリであります(実は木炭の粉)。名付けて“サルノクロヤキ”(そのまんま)コレがまた良く効くスグに効く。男は精力絶倫!不妊でお悩みのご婦人は、コレを飲んだト月トォ日後がサァお楽しみ、オギャァと産まれる玉の子黄金(くがね)の子。そんな奇跡の小袋ひとつ、今ならナント50円! ・・・ん?お兄ちゃん、高い??見上げたもんだよ屋根屋のフンドシ、そんじゃぁ40円!サァ買った買ったァ!」そこですかさずサクラ役のオヤジの妹が現れて「ひとつ下さ~い」「おっと、お姉ちゃん!好きな彼氏にプレゼントかい?ありがとね、はい40円」と、まあ、その絶妙なタイミングで登場したサクラに背中を押されたように、僕も私もと本物の買い手が群がり、あっという間にサルノクロヤキは完売。途端、オヤジはそそくさと荷物をまとめて足早に退散。人々が「ダマされた!」と気づいたときには、すでにオヤジは遠い町で「見上げたもんだよ屋根屋のフンドシ~」なんてやっている。
 これは60年以上も昔の話なので、もう時効ということでお許し頂きたいのだが、当時はそんな商売が当たり前のように横行していた時代であり、まんまと乗せられた客も、まがい物の代金は口上という芸の見物料という感覚で楽しんでいた良き時代でもあった。こんな具合に、群衆の心理を掴みとる術に長けたオヤジだったので、のちにテキ屋から足を洗いラーメン屋台を始めても、その才能は遺憾なく発揮されたのである。 
更に面白いオヤジ伝説を皆さまに紹介したいが、このシリーズも今号で最終章。・・・しかし「そうかい、もっと続きを聞きたい?見上げたもんだよ屋根屋のフンドシ。そんじゃーこの話、次号も続けよう!」なんと無計画なシリーズだ。
次号へ続く